脳卒中について

 昨今の全国の脳卒中患者は手元の数値で約111万人ほど、25歳から65歳までの要介護者の約半数は脳卒中後の後遺症によるものとのことでした。年間の死者では約10万人で、癌、心疾患に次いで脳卒中が挙げられています。年々減っているとはいえ未だに決して少なくない人数が当該疾患で苦しんでおられます。
 この疾患は漢方では中風といいます。風に当たるという意味です。中風の臨床表現は突然昏倒、人事不省となり、口眼の歪みや半身不遂を来します。救急治療を受けて助かったとしても往々にして、半身マヒの後遺症が残ります。この中風病も古くから研究されてきたことが漢方医学の古文献から認められます。病名からもわかるように、突然風邪の凶悪なものに当てられるとの理解で研究されてきたのですが、金元の頃(12世紀以降)から中風の風は外からの風ではなく内から吹く風、すなわち内風の凶悪なものとの理解が一般的に定着するようになりました。例えば劉河間は中風の半身マヒは肝木の風実甚だしくてにわかに当てられたものでも外からの風邪に当たったものでもない。普段からの生活習慣が悪いために心火が暴れ、腎水衰えてこれを制御できず、陰虚陽実し熱気怫鬱、心神昏冒し筋骨用いられず卒倒するに至る。・・・李東垣は中風は外来の風邪によるものではない。人は40歳を超えると精気が衰える。そのとき憂喜憤怒が極端に走るとこの疾を来すことがある。若くて元気な時はならないが肥満者にはたまに出ることがある。形体が盛んなのに気が衰弱してバランスの悪い場合になりやすい。・・・朱丹渓は東南は温かくて湿度が高い。この地で風病を患う人は皆、湿土で痰を生じ、熱が風を生じたものだ・・云々。
 これら代表的な著名なる三人は、それぞれに中風の病理に新しい卓見を加えることになった。
 WHOの調査によれば、世界で平均して10万人中毎年200人前後の罹患者が発生しており、死亡率も比較的高く、且つ生存者にも運動マヒ等の障害を残すことが多い。
 昔から、中風発症の前にその先兆症状があるので予め病の防止を図って生活習慣の改善や心理的傾向の修正を心がけることが重要であるといわれている。例えば・・朱丹渓は「眩暈は中風の漸也。」「大指と示指が痺れて用いられないものは3年以内に中風の患いあり。」といっており、ほかにも、時々一時的眩暈、耳内で蝉の鳴き声や風邪の響きが聞こえる。瞼が跳動したり眼球が強張ることがある。唇が強張ったようで涎がこぼれ易くなった。最近急に物忘れが激しくなった。手が震えるようになった。みぞおちが急に塞がったり、空になったりする。等など様々な症状が中風の予兆として挙げられている。これらの症候のほかに、脈や舌象その他の漢方的診断術を総合して些かでもその危険性ありとせば、心して中風の予防に努める必要があるだろう。食事面では食べ過ぎないように、甘味脂身濃厚な味付け肉魚を控え、蔬菜にフルーツをとり、薄味につとめ、酒たばこも控える。過労を避け適度な運動を習慣づける。漢方中医学では伝統的に、中年以降は陰気半ばを過ぎるゆえに精を惜しむということから房事を慎むようにと教えられている。心持を闊達にし、こだわりを捨て、怒りや嫉みを遠ざけることは晩年の健康にとって特に大切なこととなる。もちろん鍼灸治療が中風の予防と治療に果たす可能性は少なくないのであるが、特に半身不随などの後遺症に対する鍼灸処方については別に改めて解説したい。

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